› (仮) › メールの送信者2012年02月13日
メールの送信者
依頼者の住んでいる家に、そこまで古くはない過去に殺人事件があった。
それを知った依頼人は、いわゆる、その、幽霊を見るようになった。
それが本物なのか、どうか。それが今回の依頼だった。
探偵の仕事だろうか。いや、探偵とは若干違うのだった。
捜索人。所長はそう言った。
依頼人が探しているもの、人、犬猫亀鳥、答え、結論を捜す。依頼人の求めているものを見つける。だから捜索人なのよと、所長はメルヘンチックな口調でいっていたっけ。
だから事務所名も探偵ではなく、
ヨツヤ捜索探偵事務所
という。ややこしい。結局探偵事務所じゃないですか、という僕の質問に、四夜(よつや)所長は「お客様は知っている文字を見ると安心するのよ」と上品に笑っていた。所長は僕とは格が違う。未熟者の僕は煙に巻かれてばかりだ。
だからこそ、四夜所長のもとで仕事をするのが楽しいのだけれど。
楽しいのだけれど、たまに、かかわりたくない仕事がある。おばけとか、幽霊とか、怨念とか、その手の話だ。
「か弱き女の子を安心させる騎士道精神ど真ん中の仕事じゃないの」と六手さんはいっていたっけ。
六手さんは、四夜所長が事務所を立ち上げたときからの右腕だという。だとしたら随分お歳をめされていることになるが、せいぜい三十代前半にしか見えない。ちなみに正確な年齢は自己保身のために聞いていないし永遠に知らないようにしている。
その六手さんと組んで挑んだ今回の調査は、これといった怪奇現象もなく、依頼人の精神的なストレスということで決着がついた。四夜所長が、独特の優しさの言葉で依頼人の心から不安を消す。そして自分の力で立ち向かう。そういう話をし、その経過を今夜僕が報告書という形に仕上げることで、ちゃんと幕が引かれることになる。
「なんだ。出なかったのね。つまらんつまらん」
「つまらなくは」
ないでしょう、という僕の言葉に重なるようにして、双葉さんの携帯がメールの着信をメロディで伝える。僕の携帯じゃないと即座に断言できるのは、双葉さんの着信音が、正確には着信ボイスが「う~ら~め~し~や~」という、心底恨めしそうな声だからだ。ひゅーどろどろ、という効果音までついている。どこでダウンロードしたのだろう…自作?
その音をきっかけに、僕は報告書へと意識を向けた。とにかく早めに仕上げてしまおう。
調査経過のメモの中から必要な報告箇所を見つけ、それをパソコンに入力する。
何気なく。
本当に何気なく、双葉さんの方を見る。
綺麗に整った眉を寄せ、険しい表情で携帯を見る双葉さんがいた。
「どういうこと」
というつぶやきは、自分へのものか、僕への問いかけだろうか。
「どうしました?」と尋ねるより早く、双葉さんが僕の方を見る。
「紀子の怪談のオチ、さっき弱いってわたしは言ったけど」
訂正するわ。結論はまだ早いかもと双葉さんが言う。僕には事情も意味もわからない。
「話を聞くと呪われる。その呪いは存在しない人物からのメールが届くことによって証明される。そんなことを言っていたんだけれど」
何故、僕にまでその呪いの話の内容を伝えてくれるのだろう。泣きそうになる僕にかまわず双葉さんが携帯の画面を僕の方へと向ける。
「来たわよ、今。存在しない誰かからのメールが」
僕まで呪いに巻き込んで欲しくないのだが、その抗議はさすがにちょっと情けない。だからだから別の言い方で話を否定しようとした。
「存在しないって、どうして分かるんですか?」
「その人はもうすでに死んでいてこの世にいないから」
一クンが調査に加わった家。殺された人の名前は当然知っているわよねと、双葉さんが尋ねる。珍しい名前だ。漢字はすぐに思い出せるが読み方が難しい。
「八月一日と書いて、ほずみ。八月一日喜美雄(きみお)です」
今わたしに「今日は何時に帰るの?」というメールをメールをしたのはね。
その八月一日喜美雄なのよねと、双葉さんは攻撃的な笑顔を浮かべた。
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それを知った依頼人は、いわゆる、その、幽霊を見るようになった。
それが本物なのか、どうか。それが今回の依頼だった。
探偵の仕事だろうか。いや、探偵とは若干違うのだった。
捜索人。所長はそう言った。
依頼人が探しているもの、人、犬猫亀鳥、答え、結論を捜す。依頼人の求めているものを見つける。だから捜索人なのよと、所長はメルヘンチックな口調でいっていたっけ。
だから事務所名も探偵ではなく、
ヨツヤ捜索探偵事務所
という。ややこしい。結局探偵事務所じゃないですか、という僕の質問に、四夜(よつや)所長は「お客様は知っている文字を見ると安心するのよ」と上品に笑っていた。所長は僕とは格が違う。未熟者の僕は煙に巻かれてばかりだ。
だからこそ、四夜所長のもとで仕事をするのが楽しいのだけれど。
楽しいのだけれど、たまに、かかわりたくない仕事がある。おばけとか、幽霊とか、怨念とか、その手の話だ。
「か弱き女の子を安心させる騎士道精神ど真ん中の仕事じゃないの」と六手さんはいっていたっけ。
六手さんは、四夜所長が事務所を立ち上げたときからの右腕だという。だとしたら随分お歳をめされていることになるが、せいぜい三十代前半にしか見えない。ちなみに正確な年齢は自己保身のために聞いていないし永遠に知らないようにしている。
その六手さんと組んで挑んだ今回の調査は、これといった怪奇現象もなく、依頼人の精神的なストレスということで決着がついた。四夜所長が、独特の優しさの言葉で依頼人の心から不安を消す。そして自分の力で立ち向かう。そういう話をし、その経過を今夜僕が報告書という形に仕上げることで、ちゃんと幕が引かれることになる。
「なんだ。出なかったのね。つまらんつまらん」
「つまらなくは」
ないでしょう、という僕の言葉に重なるようにして、双葉さんの携帯がメールの着信をメロディで伝える。僕の携帯じゃないと即座に断言できるのは、双葉さんの着信音が、正確には着信ボイスが「う~ら~め~し~や~」という、心底恨めしそうな声だからだ。ひゅーどろどろ、という効果音までついている。どこでダウンロードしたのだろう…自作?
その音をきっかけに、僕は報告書へと意識を向けた。とにかく早めに仕上げてしまおう。
調査経過のメモの中から必要な報告箇所を見つけ、それをパソコンに入力する。
何気なく。
本当に何気なく、双葉さんの方を見る。
綺麗に整った眉を寄せ、険しい表情で携帯を見る双葉さんがいた。
「どういうこと」
というつぶやきは、自分へのものか、僕への問いかけだろうか。
「どうしました?」と尋ねるより早く、双葉さんが僕の方を見る。
「紀子の怪談のオチ、さっき弱いってわたしは言ったけど」
訂正するわ。結論はまだ早いかもと双葉さんが言う。僕には事情も意味もわからない。
「話を聞くと呪われる。その呪いは存在しない人物からのメールが届くことによって証明される。そんなことを言っていたんだけれど」
何故、僕にまでその呪いの話の内容を伝えてくれるのだろう。泣きそうになる僕にかまわず双葉さんが携帯の画面を僕の方へと向ける。
「来たわよ、今。存在しない誰かからのメールが」
僕まで呪いに巻き込んで欲しくないのだが、その抗議はさすがにちょっと情けない。だからだから別の言い方で話を否定しようとした。
「存在しないって、どうして分かるんですか?」
「その人はもうすでに死んでいてこの世にいないから」
一クンが調査に加わった家。殺された人の名前は当然知っているわよねと、双葉さんが尋ねる。珍しい名前だ。漢字はすぐに思い出せるが読み方が難しい。
「八月一日と書いて、ほずみ。八月一日喜美雄(きみお)です」
今わたしに「今日は何時に帰るの?」というメールをメールをしたのはね。
その八月一日喜美雄なのよねと、双葉さんは攻撃的な笑顔を浮かべた。
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Posted by 安里欠伸 at 12:45

